2 境界条件と初期条件

2.1 方程式を解くための条件

微分方程式や偏微分方程式を解き,値--ここでは弦の振幅--を求める場合,次のような境界条件や 初期条件が必要となる. 14pt 方程式で求める量--ここでは振幅--が,条件として与えられることもあるが,その微 分の値が条件になることもある.もっと複雑な場合もある.

教科書では,このプリントで述べる初期条件と境界条件を合わせて,境界条件と記述して いる.しかし,電気の業界では,境界条件と初期条件は区別している.この講義は「電気 数学」なので,これらは区別する.

ここでは,これらの境界条件から,式(13)の$ C_n$$ D_n$を決める方 法をしめす.これらの係数を決定することにより,弦の振動が完全にきまる.

2.2 境界条件

弦の振動の境界条件は,

  $\displaystyle X(0,t)=0$   $\displaystyle X(L,t)=0$   (14)

である.物理的には,弦の両端を固定している--ことに対応している.すでに,この条 件は式(13)に含まれている.空間に関する波動方程式の解のうち $ \sin$の項のみを選んだ過程を思い出せ.

2.3 初期条件

式(13)の$ C_n$$ D_n$は,時刻$ t=0$の弦の形と速度分布より決めること ができる.$ t=0$のときの形と速度を

$\displaystyle y(x,0)=f(x)$ (15)
$\displaystyle \if 11 \cfrac{\partial y(x,0)}{\partial t} \else \cfrac{\partial^{1} y(x,0)}{\partial t^{1}}\fi =v(x)$ (16)

とする.この様子を図23に示 す.これらを初期条件という.初期の弦の形$ f(x)$と速度分布$ v(x)$は問題として 与えられるので既知である.偏微分方程式(1)は,初期条件以降の弦の運 動を表す.

図 2: $ t=0$の波形$ f(x)$
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.8]{figure/string_vib_init_y.eps}
図 3: $ t=0$の速度分布$ v(x)$
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.8]{figure/string_vib_init_v.eps}

偏微分方程式の解である式(13)が初期条件を満足するように$ C_n$$ D_n$を決めれば,波動方程式が完全に解けたことになる.それらの値は,初期条件と比 較することにより決めることができる.式(13)の$ t=0$の弦の形と速 度は,

$\displaystyle y(x,0)$ $\displaystyle =\sum_n C_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ (17)
$\displaystyle \if 11 \cfrac{\partial y(x,0)}{\partial t} \else \cfrac{\partial^{1} y(x,0)}{\partial t^{1}}\fi$ $\displaystyle =\sum_n D_n\frac{n\pi c}{L}\sin\frac{n\pi x}{L}$ (18)

となる2

解の式から求めたこれらは,初期条件である式 (15)と(16)に等しい.だから,

$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle =\sum_n C_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ (19)
$\displaystyle v(x)$ $\displaystyle =\sum_n D_n\frac{n\pi c}{L}\sin\frac{n\pi x}{L}$ (20)

となる.この式から,既知である$ f(x)$$ v(x)$を使い$ C_n$$ D_n$を決めれば,全て解 けたことになる.問題は,この式から$ C_n$$ D_n$を決めることである.

ここで,$ C_n$$ D_n$を求める前に,$ f(x)$$ v(x)$の性質を考える.$ f(x)$$ v(x)$の 定義域は$ [0,\,L]$である.したがって,$ f(x)$$ v(x)$はフーリエ級数,フーリエ正弦 級数,フーリエ余弦級数などで展開できる.また,$ x=0$$ x=L$で弦は固定されているので,

$\displaystyle f(0)=f(L)=0$ (21)
$\displaystyle v(0)=v(L)=0$ (22)

となる.これらのことから,$ f(x)$$ v(x)$はフーリエ正弦級数で展開する--ことが望 ましい.係数の収束も早いし,式(19)や (20)との対応も良い.すなわち

  $\displaystyle f(x)=\sum_{n=1}^{\infty}p_n\sin\frac{n\pi x}{L}$   ここで,$\displaystyle \quad p_n=\frac{2}{L}\int_0^L f(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (23)
  $\displaystyle v(x)=\sum_{n=1}^{\infty}q_n\sin\frac{n\pi x}{L}$   ここで,$\displaystyle \quad q_n=\frac{2}{L}\int_0^L v(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (24)

である.

これらの式を,式(19)や(20)に代入すると

$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}p_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ $\displaystyle =\sum_n C_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ (25)
$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}q_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ $\displaystyle =\sum_n D_n\frac{n\pi c}{L}\sin\frac{n\pi x}{L}$ (26)

となる.したがって,

  $\displaystyle p_n=C_n$   $\displaystyle q_n=D_n\frac{n\pi c}{L}$   (27)

である.これから,

$\displaystyle C_n$ $\displaystyle =p_n=\frac{2}{L}\int_0^L f(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (28)
$\displaystyle D_n$ $\displaystyle =\frac{L}{n\pi c}q_n=\frac{2}{n\pi c}\int_0^L v(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (29)

$ C_n$$ D_n$を求めることができる.これで,波動方程式が境界条件や初期条件の元, 完全に解けたことになる.解は,次のように書くことができる.

$\displaystyle y(x,t)=\sum_n\left(p_n\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}+ \frac{Lq_n}{n\pi c}\sin\frac{n\pi x}{L}\sin\frac{n\pi ct}{L}\right)$ (30)

2.4 具体的な弦の振動の例

2.4.1 ラの音を出す

鉄でできたギターの弦でラの音を出すことを考える.弦の長さを0.6[ $ \mathrm{m}$]直径は 0.5[ $ \mathrm{mm}$]とする.鉄の密度は7.8[ $ \mathrm{g/cm^3}$]なので,線密度 $ \rho=1.5\times
10^{-3}$[ $ \mathrm{kg/m}$]となる.

音の高低は,弦の張力で調整できる.音の振動数$ f$を表す式は,式 (30)より,

$\displaystyle f=\frac{nc}{2L}$ (31)

となる.基本波($ n=1$)を考えると,波の速度を$ c=2Lf$になるように調整すれば良い.波 の速度は,

$\displaystyle c=\sqrt{\frac{T}{\rho}}$ (32)

である.したがって,必要な張力は,

$\displaystyle T=4L^2f^2\rho$ (33)

となる.先ほどのギターの弦の長さと線密度で,ドの音(440Hz)を出すためには, 必要な張力は$ T=418$[ $ \mathrm{N}$]となる.

2.4.2 弦の振動の状態

先ほどの状態のギターの弦を実際に振動させてみよう.どのように振動するであろうか? 弦の初期状態を図4のようにする.弦の中央をゆっくりとつま んで,そして離す.
図 4: 弦の初期状態
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/string_triangle.eps}

式(30)の$ p_n$$ q_n$を決めれば,弦の振動は確定する.そのた めに初期条件を考えよう.$ t=0$の時,弦の速度はどこでもゼロなので,$ v(x)=0$である. したがって,式(24)より,

$\displaystyle q_n=0$ (34)

となる.残りの$ p_n$は,式(23)を用いて計算する.弦の初期状態は

$\displaystyle f(x)= \begin{cases}\alpha x & 0\leq x \leq \cfrac{L}{2}\\ \alpha (L-x) & \cfrac{L}{2}\leq x \leq L \end{cases}$ (35)

と書くことができる.ここで,$ \alpha$は弦の傾き,$ L$は弦の長さである.これから, $ p_n$は,式(23)を使うと次のように計算できる.

$\displaystyle p_n$ $\displaystyle =\frac{2}{L}\int_0^{L/2}\alpha x \sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x+ \frac{2}{L}\int_{L/2}^{L}\alpha (L-x) \sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle =\frac{2}{L}\left[ -\alpha x \frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\pi x}{L} \...
...}+ \frac{2\alpha}{L}\int_0^{L/2}\frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle \qquad +\frac{2}{L}\left[ -\alpha(L-x)\frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\p...
...L- \frac{2\alpha}{L}\int_{L/2}^L\frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle =-\frac{\alpha L}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{2} +\frac{2\alpha}{L}\left...
...-\frac{2\alpha}{L}\left[\frac{L^2}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi x}{L}\right]_{L/2}^L$    
  $\displaystyle =\frac{4\alpha}{L}\left(\frac{L^2}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}\right)$    
  $\displaystyle =\frac{4\alpha L}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}$ (36)

$ q_n=0$なので,弦の振動は,

$\displaystyle y(x,t)=\sum_n \frac{4\alpha L}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}$ (37)

となる. $ \sin(n\pi/2)$の項は$ n$が偶数の場合ゼロとなる.したがって,$ n$は奇数のみ を加算すればよい.すると,

$\displaystyle y(x,t)$ $\displaystyle =\sum_{N=1}^\infty \frac{4\alpha L}{(2N-1)^2\pi^2}(-1)^{N-1} \sin\frac{(2N-1)\pi x}{L}\cos\frac{(2N-1)\pi ct}{L}$    
  $\displaystyle =\sum_{N=1}^\infty \frac{(-1)^{N-1}4\alpha L}{(2N-1)^2\pi^2} \sin\frac{(2N-1)\pi x}{L}\cos\frac{(2N-1)\pi ct}{L}$ (38)

となる.これが,最初の図4の状態の弦の振動を表す式である. これを弦の条件

  $\displaystyle \alpha=\frac{1\times 10^{-3}}{0.3}$   $\displaystyle L=0.6$   $\displaystyle \frac{\pi c}{L}=2\pi\times 440$   (39)

を代入するとドの音がでる.位相が30度ごとの弦の状態を図510にしめす.想像もつかないような弦の形になる.なぜ,このようなこ とが生じるか,物理的な理由を考えてみよ.

図: 時刻 0[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave00.eps}
図: 時刻 0.18939[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave30.eps}
図: 時刻 0.37879[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave60.eps}
図: 時刻 0.56818[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave90.eps}
図: 時刻 0.75758[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave120.eps}
図: 時刻 0.94697[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave150.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年2月22日